薬膳専門中華料理店「龍包」は1992年に創業した。店主の周龍明は上海出身で、幼少期から祖父の薬膳スープや点心に親しんで育った。日本で和食の季節感や出汁の取り方に触れ、食を通じて心身を整えるという考え方を深める。その後、上海で点心や火鍋の名店で修業し、中医学を学びながら、薬膳と日本の食文化を融合させた新しい料理の構想を抱く。帰国後、小さな店舗で「龍包」を開店。看板メニューの焼き小籠包は、薄皮で香ばしく焼き上げた底に、豚肉や鶏がらスープ、生姜、棗のエキスが詰まった特製スープが特徴。焼き目の香ばしさと、中から溢れる滋味深いスープの対比が評判を呼び、瞬く間に人気店となった。もう一つの名物は薬膳カレーで、クミンやコリアンダー、八角や高麗人参などのスパイスを巧みに組み合わせ、温かみのある味わいに仕上げている。健康志向の若者や料理研究家にも支持され、創業から20年以上経った今も、薬膳を日常的に楽しめる形で提供し続けている。
薬膳の歴史は、古代中国の伝統医学と食文化の発展とともに歩んできた。起源は約三千年前の周の時代とされ、当時すでに「医食同源」の思想が形成されつつあった。戦国〜秦漢期には、薬草学の基礎を築いた『神農本草経』が編纂され、食物と薬物が連続した概念として扱われるようになる。食材にはそれぞれ性味( 寒・熱・温・涼、辛・甘・酸・苦・鹹)や五臓への働きがあるとされ、体質や季節に応じて食を調える考え方が確立した。 隋・唐代には、宮廷で栄養と薬理を兼ねた食事管理が進み、医官による献立作成が行われた。宋代には、食医の地位が高まり、薬膳の理論と実践が民間にも広く普及した。明・清代には『本草綱目』などの影響により、食材の分類や効能がいっそう体系化され、薬膳の学問的基盤が強固になった。 現代では、中医学理論を基にしつつも、栄養学や料理学と結びつき、健康維持・未病予防の食事法として世界に広まっている。薬膳は単なる薬効食ではなく、食を通じて身体のバランスを整える総合的な生活文化として進化し続けている。